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ニュース&イベント: 知的財産関連情報

外国語商標のリスクを超えて :「Merci」と「Danke」の 商標紛争からみる教訓

3.19.26
関連業務分野 知的財産テクノロジー

最近、米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office。以下「USPTO」といいます)の商標審判部である商標審判控訴委員会(Trademark Trial and Appeal Board。以下「本委員会」といいます)は、企業にとって実務的なブランド戦略上の教訓となる決定を行いました。August Storck KG v. Florend Indústria e Comércio de Chocolates LTDA事件において、長年にわたって「Merci」というチョコレートブランドを使用してきた商標権者は、チョコレート製品に使用する「Danke」という商標の登録に対して異議を申し立てました。「Merci」と「Danke」という2つの言葉はそれぞれフランス語とドイツ語で「ありがとう(thank you)」を意味する言葉であり、異議申立人は、消費者がこれらの言葉を英語に翻訳した際に2つのブランドの間に関係があると認識する可能性があると主張しました。しかし、本委員会はこの主張を認めず、「Danke」の商標登録手続を進めることを認めました。

USPTOが適用する原則の一つに「外国の同義語の法理(Doctrine of Foreign Equivalents。問題となる言葉が外国語である場合、その言葉を英語の意味に翻訳したうえで消費者の混同可能性を評価する法理)」があり、本件では同法理の適用が争点となりました。本委員会は、多くの米国消費者が2つの言葉を見て、いずれも「ありがとう(thank you)」と翻訳する可能性があると結論付けました。しかしながら、本委員会は、米国商標法において、ブランドが市場において与える全体的な商業上の印象、すなわち市場における聞こえ方(sounds)、見え方(looks)、受け止められ方(feels)が総合的に検討されることを示しました。本件において「Merci」と「Danke」は同じ意味(ありがとう)を有するものの、視覚的にも発音的にも相違があり、本委員会は、その差異が消費者における混同のおそれを回避するに足りると判断しました。

さらに本件は、マーケティング活動がブランドの強さにどのような影響を及ぼすかを示している点でも重要な示唆を有しています。「Merci」の商標権者は、「Nothing says thank you like Merci(ありがとうを伝えるならMerciに勝るものはない)」というスローガンを用いていました。本委員会は、このスローガンが、「merci」という言葉が通常有している意味(ありがとう)を強調するものとして機能していると評価し、その結果として当該商標の観念的な強さ(conceptual strength)を弱める方向に働くと判断しました。したがって、あるブランドが「ありがとう(thank you)」、「新鮮な(fresh)」、「天然の(natural)」といった一般的な感情や表現に強く依拠することは、その商標の保護範囲を狭くするリスクとなります。

企業の意思決定者にとって、本件の持つ示唆は明確であり、ブランド選定における商標調査(brand clearance)において、外国の同義語の法理の適用による翻訳は、商標権保護を判断するうえで、あくまで一つの要素にすぎないということです。企業は、ある商標がどのように聞こえるか、どのように見えるか、そして特定の業界の中でどのような位置付けになるかを総合的に評価すべきであり、より広範な保護を求める場合には、一般的な表現に基づく名称を採用することは避けるべきでしょう。また、商標調査を行う際には、スペルの一致検索だけでなく、発音および言語学的観点からの検索も実施し、さらに企業が発信するキャッチコピーまたはスローガンが当該商標の識別力を強化するのか、あるいは弱めるのかについても検証する必要があります。単にマーケットで人気があるだけではなく、より強固な商標法上の保護を受けることができるブランドが強いブランドたり得ます。

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