概要
- オフィスワークとリモートワークとを組み合わせたハイブリッドワーク・モデルが広く普及し、米国雇用主の60%がこのような勤務形態の選択肢を提供しています。イリノイ州では、2025年に施行された法律により、雇用主に対して、オフィスワークおよびハイブリッドワークの両形態で勤務する従業員の管理に関して新たな義務が課せられました。特に、賃金に関するコンプライアンスと人事記録へのアクセスに関する義務について規定されています。
- 近時のイリノイ州賃金支払・徴収法(IWPCA)の改正により、イリノイ州の雇用主は、従業員に対して、給与の各支払期間における労働時間、賃金率、超過勤務手当、控除額および給与支給累計額を記載した給与明細書を、電子ファイルまたは書面で提供しなければなりません。
- 近時のイリノイ州人事記録閲覧法(IPRRA)の改正により、5人以上の従業員を雇うイリノイ州の雇用主は、ベネフィットに関する文書、雇用契約書、従業員規則(handbook)および雇用の決定に影響する方針(policies)に関する文書を含む、より詳細な内容の人事記録を閲覧できるようにしなければなりません。
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オフィスワークおよびリモートワークの従業員の賃金に関するコンプライアンス:
イリノイ州賃金支払・徴収法(IWPCA:Illinois Wage Payment and Collection Act)の改正(S.B. 3208):
2025年1月1日から、イリノイ州の雇用主は、従業員に対して、給与(賃金)の各支払期間における労働時間、賃金率、超過勤務手当、控除額および給与支給累計額を記載した給与明細書を、電子ファイルまたは書面により提供しなければなりません。雇用主は、給与支払日から少なくとも3年間はその記録を保持しなければなりません(当該期間において雇用が終了する場合でも同様です。)。従業員が給与明細書のコピーを請求する場合、雇用主は、従業員にかかる請求を書面で行うように要求することができます。従業員は、年2回まで当該明細書のコピーの交付を請求することができます。請求があった場合、雇用主は、請求を受けてから21日以内に、当該明細書のコピーを現従業員または元従業員に交付しなければなりません。ただし、離職日から1年を超えた時点で請求がなされた場合、雇用主は、従業員の当該請求に応える義務はありません。
ハイブリッドワークへの影響:
雇用主がイリノイ州で課された賃金・労働時間に関する義務を遵守する上で、ハイブリッドワークで働く従業員が、リモートワークにより勤務する時間を正確に確認・記録することは不可欠です。もちろん、リモートワークの従業員の労働時間を正確に追跡することは容易ではありません。しかし雇用主は、IWPCAを遵守するにあたり、リモートワークによる労働時間を追跡し、給与明細書を発行するために信頼できるシステムを導入する必要があります。労働時間を追跡するためのオプションとしては、タイム・トラッキング・アプリ、タイムシート、またはその他のデジタル・ツールが考えられます。また、離職した従業員に対しては、離職後1年間は、電子化された給与明細を閲覧できるようにするか、あるいは、少なくとも、従業員が離職する際には給与明細書を提供しなければなりません。
オフィスワークおよびリモートワークの従業員による人事記録へのアクセス:
イリノイ州人事記録閲覧法(IPRRA: Illinois Personnel Records Review Act)の改正 (P.A. 103-727):
2025年1月1日に発効した本改正法により、5名以上の従業員を雇用するイリノイ州の雇用主は、従業員が、ベネフィット、雇用契約書、従業員規則(handbook)および雇用の決定に影響する方針(policies)に関する文書を含む、より詳細な内容の人事記録を閲覧できるようにしなければなりません。従来のIPRRA適用除外に加え、現在従業員は、「雇用主の営業秘密、顧客リスト、売上予測、財務データ」にアクセスする権利は有していません。従業員は、年2回まで人事記録を請求することができます。雇用主は、請求がなされてから7日以内に対応し、従業員が人事記録を電子的に閲覧できるように手配しなければなりません。ただし、雇用主が当初の期限を遵守できない理由を合理的に示すことが可能な場合は、さらに追加で7日間の準備期間が与えられます。請求された人事記録の一部または全部の電子的な閲覧がすでに可能である場合、改正されたIPRRAにより、雇用主は、従業員に当該情報のコピーを提供する代わりに、オンライン・アクセスするように指示することができます。
ハイブリッドワークへの影響:
ハイブリッドおよびリモートワークの従業員が、人事ファイル・人事記録を直接手にする機会は多くありません。したがって、IPRRAによるオンライン・アクセスの要件は、この種の労働者にとって特に重要であるといえます。イリノイ州の雇用主は、人事記録をデジタル化するだけでなく、かかる情報を容易に検索できるようにし、従業員の請求に応じて提供できるようにしなければなりません。雇用主が人事記録のオンライン・アクセスを提供できない場合、あるいは同記録の提供が遅延する場合、従業員がイリノイ州労働局へ不服申立てをする可能性もあります。また、かかる申立てが180日間解決しなかった場合には、民事訴訟へ発展することもあり得ます。
本稿について何かご質問がある場合は、ノーリーン・アムジャッド弁護士(Naureen Amjad)、パトリック・ケリー弁護士(Patrick M. Kelly)または雇用/労働法/福利厚生部門のメンバーまでお問い合わせください。
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