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ニュース&イベント: クライアント・アドバイザリー

法律問題に関する親子会社間のコミュニケーションは 「弁護士-依頼者間秘匿特権」(Attorney-Client Privilege)で保護されるか(パート1)

12.14.23
関連業務分野 訴訟

イリノイ州法では、係争中または今後提起されるであろう訴訟に関する子会社(または子会社の代理人弁護士)とその親会社との間のコミュニケーションは、通常、弁護士と依頼者との間の秘匿特権(以下「弁護士-依頼者間秘匿特権」といいます。)またはその他の秘匿特権によって保護されません。以下に詳述しますが、このようなコミュニケーションが保護される場面は限定されています。そのため、会社が訴訟に巻き込まれたときには、このようなコミュニケーションは証拠開示の対象になってしまうのです。

通常、外国会社の完全子会社は、重要事項が発生すると、それを親会社に報告します。例として、外国親会社が製造した商品を販売している米国子会社のケースを想定してみましょう。

子会社がある販売代理店との契約を解除したところ、その販売代理店から、解除は契約違反だと主張されました。子会社は、販売代理店の主張についてリーガルアドバイスを得るために自社の顧問弁護士に連絡します。顧問弁護士は、子会社の責任についての分析と販売代理店の主張に対する反論の戦略を子会社にメールでアドバイスします。その夜、子会社はそのメールを親会社に転送しました。

これはよくあるケースです。顧問弁護士が(自分のクライアントである)子会社に対して送ったメールは、弁護士-依頼者間秘匿特権によって保護されます。連邦法および州法における弁護士-依頼者間秘匿特権の目的は、他の当事者または政府に対して情報開示を強制されるおそれを取り除くことによって、依頼者とそのリーガルアドバイザーとの間の完全かつ率直な協議を促進することです。つまり、弁護士-依頼者間秘匿特権は、弁護士とその依頼者との間の、リーガルサポートを得る/与えるために、秘密で行われた、あらゆるコミュニケーションに適用されるものなのです。

弁護士-依頼者間秘匿特権によって保護されるためには、これらの各要素が満たされなければなりません。たとえば、さきほどの例で、顧問弁護士と依頼者(子会社社長)の話し合いが、ゴルフトーナメントの会場において、同席した他のプレイヤーが会話を盗み聞きしている状況で行われた場合、そのコミュニケーションは秘密で行われたとはいえないため、弁護士-依頼者間秘匿特権は存在しません。また、子会社社長が、自宅の隣に住む(子会社の代理人ではない)弁護士に対して、販売代理店の主張の妥当性について質問したとしても、そこには弁護士-依頼者という関係性が存在しないため、弁護士-依頼者間秘匿特権は生じません。さらに、弁護士-依頼者間秘匿特権が適用されるのは、そのコミュニケーションが主として法的な性格を有している場合に限定されます。ビジネス上、商業上、または個人的なアドバイスに関するコミュニケーションが弁護士-依頼者特権によって保護されることはありません。

 

さらに、そのコミュニケーションが秘匿特権の保護対象となる場合でも、子会社がその秘匿特権を放棄することがあり得ます。これは、弁護士と依頼者の間のコミュニケーションが第三者によって開示請求の対象とされる可能性があることを意味します。秘匿特権放棄の最もよくある例は、秘匿特権によって保護されるコミュニケーションが、秘匿特権の範囲外で開示請求の対象とされた場合です。

上述のとおり、コミュニケーションの場に第三者が存在することや、第三者に対して情報を開示することは弁護士-依頼者間秘匿特権による保護を奪う事情となりますが、この一般原則の例外として「共通利益原則」(Common Interest Doctrine)があります。この原則によって、それぞれ代理人弁護士がついている各当事者は、共通の法的目標を推進するために、秘匿特権によって保護される情報を、相互に、または、それぞれの代理人弁護士と共有することができます。共通利益原則は、独立した特権ではなく、単に共通利益を有する当事者らが秘匿特権によって保護される情報を共有することを認めるものにすぎません。したがって、共通利益原則が適用されるためには、基礎となるコミュニケーションは依然として弁護士-依頼者間秘匿特権の要件を満たしている必要があります。

イリノイ州法の下では、「共通利益」(Common Interest)は、訴訟において同じ法的目標を追求する上で共通する利益を意味し、ビジネス上の利益の共有とは異なるものです。当事者らが訴訟において完全に協力関係にある必要はありませんが、共通利益は一致していなければなりません。共通利益原則が適用される場合、共通利益を求める当事者らは、次のようなコミュニケーションを理由に、弁護士-依頼者間秘匿特権を放棄したとされることはありません。

  • 共通利益を有する当事者らの代理人弁護士間のコミュニケーション
  • 共通利益を有する一方当事者と、他方当事者の代理人との間のコミュニケーション
  • 共通利益を有する一方当事者が同席する場所での、他方当事者と、その代理人弁護士との間のコミュニケーション
  • 代理人弁護士らが同席する場所での、共通利益を有する当事者間のコミュニケーション

なお、共通利益原則は、代理人弁護士が同席しない場所での当事者間のコミュニケーションには適用されませんので、その点には注意が必要です。

最初の例で、子会社が代理人弁護士のメールを親会社に転送するときに、子会社の顧問弁護士をccに入れていた場合はどうでしょうか。顧問弁護士をccに入れた場合の弁護士-依頼者間秘匿特権の適用については明確なルールはありませんが、このケースでは、子会社が親会社に送ったメールは、弁護士-依頼者間秘匿特権によっては保護されません。なぜなら、そのメールは、リーガルアドバイスを得るという目的で送信されたわけではないからです。

顧問弁護士が子会社だけでなく親会社も代理しており、両会社の間に共通利益がある場合、その顧問弁護士は親会社に対して、あるいは親子会社双方に対してメールを送ることができます。そのコミュニケーションは弁護士-依頼者間秘匿特権によって保護される可能性が高いでしょう。

 

パート2では、ワークプロダクトの法理(Attorney Work Product Privilege)と共同防御法理(Joint Defense Doctrine)について説明するとともに、相手方当事者への開示から重要な情報を守るためのさらなるヒントを提供をしたいと思います。

まず初めに、コロンビア特別区連邦地方裁判所は、2023年8月18日、Thaler対Perlmutter事件において、AIが人間の関与なしに生成した芸術作品は著作権法による保護の対象とはならないと判示しました。裁判所は、著作権はAIの所有者に帰属すべきであるとする原告の主張を退けたのです。裁判所は、作品の生成に人間の関与がなかったという事実が、当該作品を著作権による保護の対象から除外することになると判示しました。さらに、裁判所は、著作権法の中核をなすのは人間の創作活動であり、人間の関与なくして著作権は存在しないと明確に述べました。

Thaler事件は視覚的な作品の著作権保護を扱ったものですが、その判示は、楽曲、文学、さらにはソフトウェア・コードにも適用される可能性があります。さらに、Thaler事件はAIが作品全体を作り出した状況に関してのものですが、作品の著作権保護を危険に曝すことなくAIが作品の創作に関与することが許されるのはどの範囲までなのかという残された問題があります。

次に、全米脚本家組合(Writers’ Guild America)(以下「WGA」といいます。)による長期にわたったストライキの後にWGAと全米映画・テレビ製作者同盟(Alliance of Motion Picture and Television Producers)(以下「AMPTP」といいます。)の間で締結された2023年の最低基本合意(Minimum Basic Agreement)(以下「MBA」といいます。)は、著作権の創出と保護の問題に対処するために(また、脚本家の雇用を守るために)、契約当事者が職場でのAIの使用に関する様々な条項を契約書にどのように組み込むことができるかの例を示しています。たとえば、MBAには、AIを「人」、「作家」、「プロの作家」とみなさないことに両当事者が同意することを示す明確な文言が含まれています。また、MBAは、企業がライターにAIの使用を要求することはできず、企業がAIを用いて脚本を書いたり書き直したりすることはできないと定めています。MBAはさらに、必要な場合には、ライターは企業の同意を得てAIを使用することができると定めています。最後に、AIを訓練するために作家の素材を使用することは明示的に禁止しない一方で、MBAは、「AIを訓練するために作家の素材を利用することはMBAまたはその他の法律で禁止されている」と主張する権利をWGAが留保していることを認めています。

AIを取り巻く規制・法的枠組みはまだ黎明期にありますが、本稿で取り上げた2つの事例が示すように、企業は、AIを利用することの法的な影響を検討し始めるべきであるといえます。企業はまた、AIが自社の知的財産を危険にさらしたり、企業自身が法的責任にさらされたりするリスクから身を守るために、積極的な措置を採り始めることが可能です。このような措置には、たとえば、社内規程の策定や、AIの使用について規定する特定の条項を第三者との契約に盛り込むことなどが含まれます。AIの法的影響に関するご質問は、当事務所の知的財産テクノロジー部門のメンバーにお問い合わせください。

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