最高裁判決(Learning Resources, Inc. v. Trump)により、IEEPA関税の徴収は停止されました。現在は、返金に係る手続とIEEPA代わる関税の枠組みの双方が整いつつあります。実務上、輸入申告の状態に応じて、どのような対応を取るべきかを整理しておくことが肝要となります。
具体的な対応について述べるのに先立ち、まず、関税を取り巻く現在の状況の整理を行います。2026年2月24日以降に行われた輸入申告については、IEEPA関税は課されませんが、これに代わり、通商法(Trade Act)第122条に基づく10%の一律追加関税が、2026年7月24日まで適用されます。この関税は、通商拡大法(Trade Expansion Act)第232条および通商法第301条に基づく既存の追加関税に上乗せされる形で課されます。
2026年5月7日には、国際通商裁判所(CIT)が通商法第122条関税の一部について違法と判断する判決をしましたが、救済は限定的であり、政府も直ちに上訴しました。これを受けて、連邦巡回控訴裁判所が5月12日にCITの判決の効力を一時的に停止する措置を取っているため、当該訴訟の原告以外の輸入者については、現時点では引き続き10%関税の支払いを前提とせざるを得ません。並行して、米通商代表部(USTR)は、2026年3月に公表した通商法第301条に基づく広範な調査を継続しており、新たな追加関税が検討されています。この追加関税は、日本を含む主要製造国が対象となる可能性が高く、第122条関税は、一時的措置というよりも、新しい第301条関税体制へのつなぎとして位置づけられることになる可能性が高いといえます。
返金手続については、米国税関国境警備局(CBP:Customs and Border Protection)が、ACEポータル上でCAPE(IEEPA関税還付用の処理システム)を稼働させました。現在、実務的には、このCAPEを利用することがIEEPA関税還付の唯一の現実的なルートとなっています。CAPE Phase 1 の対象となるのは、①未決済の申告および ②決済日から80日以内であって、CBPが定めるPhase 1のテクニカルな要件を満たす申告です。これらの申告については、次の手順で対応することが想定されています。
- IEEPA関税を支払った対象申告(entry summary)を特定する。
- CBPが指定するCSVフォーマットに、対象申告番号を入力して作成する。
- ACEポータルからCAPE Declarationを提出する。
- CBPによるデータ検証と還付処理(利息を含む)の進捗をモニターする。
IEEPA関税にかかる還付権を確保する目的だけで提出した protest のうち、すでにCAPEの対象となっている申告に関しては、CBPのガイダンス上、protest を取り下げたうえでCAPE経由での処理に切り替えることが基本的な前提とされています。ただし、protest を取り下げる前に、当該申告について、分類・価格・原産地などIEEPA関税以外の争点が含まれていないかを慎重に確認する必要があります。
決済日から80日を経過しているものの、なお180日の抗議期間内にあり、かつ現時点でCAPEの対象となっていない申告については、IEEPA関税の違法性を理由とする protest を期間内に提起しておくことが検討し得ます。これらの申告が最終的にどのように処理されるかは、今後のCAPEの運用方針や、係属中のテストケースにおける裁判所の判断に左右されることになります。
これに対し、protest可能な期間が経過し、完全に確定している申告については、対応は複雑になります。多くの場合、国際通商裁判所(CIT)の残余的管轄権(residual jurisdiction)を前提とする訴訟が選択肢となり得ますが、すべての申告について個別訴訟を行うことは現実的ではありません。そのため、対象申告の一部を抽出してサンプルレビューを行い、金額的重要性や論点の共通性を踏まえて、テストケースへの参加で足りるのか、あるいは個別訴訟を提起すべきかを、早期に整理しておくことが望ましいといえます。
なお、CAPE Phase 1 には対象外となる申告も存在します。具体的には、アンチダンピング・カウンタベイリング関税(AD/CVD)命令の対象となっている申告や、より広範な争点を含む protest が係属中の申告は、Phase 1 のスコープから除外されています。このような申告については、従前どおりの protest/訴訟戦略を維持しつつ、今後のCAPEの拡張フェーズや裁判所の判断を注視する必要があります。
以上を踏まえると、実務的には、未決済または決済から80日以内の申告についてはCAPEを利用し、80日を超えているものの180日抗議期間内にある申告については protest により権利を保全し、完全に確定した申告については訴訟戦略の策定を進める、という整理になります。あわせて、通商法第122条関税を取り巻く訴訟の状況と、今後導入が見込まれる通商法第301条に基づく新たな追加関税の両方を視野に入れ、中長期の調達・価格戦略を検討しておくことが重要です。
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