今日の競争の激しい市場において、企業のブランドはその最も重要な資産の一つです。米国においてそのブランドを保護するためには、まず、米国における商標権の発生方法とその保護の仕組みを理解する必要があります。米国では、主に次の3つの権利発生および保護のルートがあります。①実際に使用することで自動的に発生するコモンロー上の商標権、②特定の州における保護を確保する州レベルでの商標登録、そして、③米国特許商標庁(USPTO)を通じて全米にわたる保護を確保する連邦レベルでの商標登録です。コモンロー上の商標権や州レベルの商標登録もある程度の保護を確保できますが、連邦のレベルでの商標登録をすることで、全国的により確固とした保護を受けられ、かつ、追加的なメリットもあります。以下では、これらの相違点と、ブランド価値を高めたい企業にとって連邦レベルでの商標登録が一般的に推奨される理由について概説します。
まず、商標のうちトレードマーク(trademark)と呼ばれるものは、商標について規定している連邦法であるtrademark Act of 1946(「Lanham Act」と呼ばれることがあります。)では、次のように定義されています。「(1)ある人によって使用される、または(2)ある人が誠実な意図をもって商業上使用し、かつ、[この法律により]備えられた主登録簿への登録を申請する、語句、名称、記号、図形、またはそれらの結合であって、他の人が製造もしくは販売する商品から自己の商品(固有の製品を含む)を識別し、区別するためもの、および、(たとえその出所が不明である場合であっても)その商品の出所を表示するために用いられるもの」とされています。
一方、商品ではなく、役務を識別し、区別するものとして、サービスマーク(service mark)がありますが、基本的に、トレードマークの場合と同じ内容の原則が適用されます。したがって、以下の「商標」に関する議論は、基本的に、トレードマークとサービスマークの両方に当てはまります。
米国では、連邦または州レベルでの登録をしなくても、実際に商業上使用することで特定の商標権が発生します。このように生じる商標権を、一般に、コモンロー上の商標権(common law trademark rights)を呼ばれます。米国では、先願主義ではなく先使用主義が採用されており、先に登録した者ではなく、その商標を商業上最初に使用した者が一般的に優先権を有するとされています。
よって、一見すると、米国では、必ずしも商標を登録する必要はないように思われます。しかしながら、このコモンロー上の商標権は、その地理的な保護範囲が限定されています。すなわち、その商標が実際に使用されている範囲(「実際にその市場が浸透している領域(Zone of Actual Market Penetration)」と「その評判が及ぶ領域(Zone of Reputation)」を含む「実際の営業権が及ぶ領域(Zone of Actual Goodwill)」)と、場合によっては、その使用が自然に広がっていく範囲(「自然に拡張する領域(Zone of Natural Expansion)」)に限定されます。このように、その保護される地理的な範囲は、比較的あいまい、かつ、限定的なものとなってしまいます。また、その商標の使用を開始した時期が明確でない場合もあるため、同一または類似の商標を使用する者との間で、いずれが先に使用したのかについて紛争が生じる可能性もあります。
そこで、商標を登録することで、その権利をより強固かつ有効的に保護することができます。まず、州レベルでの商標登録がありますが、地理的な保護範囲が原則その州に限られるなど、(次に見る連邦レベルでの商標登録に比べて)保護の内容が限定的です。
そこで、コモンロー上の商標権や州レベルでの商標登録における弱点を補う、USPTOにおける連邦レベルでの商標登録を検討することをお勧めします。連邦レベルでの商標登録は、実際の使用が地理的に限定されていたとしても、全米の州および領土にわたる保護が可能となります。また、商標登録により商標の詳細がUSPTOの検索システムを通じて公開され、その商標が既に使用されていることを第三者に対して推定的に公示することができます。そして、このような商標登録は、その商標の所有権と有効性に関して推定的な証拠としても機能し、登録後5年間継続使用された商標については、一定の条件下で「争えない(incontestable)」ものとなり、特定の事由以外では取消されないものとなります。したがって、州をまたがる事業や全国規模で活動する企業にとっては、連邦レベルでの商標登録が、最も包括的かつ効果的な保護手段となりえます。
増田・舟井法律事務所は、米国でビジネスを展開する日本企業の代理を主な業務とする総合法律事務所です。
当事務所は、シカゴ、デトロイト、ロサンゼルス、およびシャンバーグに拠点を有しています。
© 2025 Masuda, Funai, Eifert & Mitchell, Ltd. All rights reserved. 本書は、特定の事実や状況に関する法務アドバイスまたは法的見解に代わるものではありません。本書に含まれる内容は、情報の提供を目的としたものです。かかる情報を利用なさる場合は、弁護士にご相談の上、アドバイスに従ってください。本書は、広告物とみなされることもあります。