2025年、先端コンピューティング技術の輸出を規律する法規制の環境は劇的かつ混乱を伴う形で変化を遂げています。バイデン政権およびトランプ政権の双方による政策転換により、半導体およびAIハードウェアのサプライチェーン全体にわたって法令上遵守すべき義務の範囲が大幅に拡大しました。2025年初め、バイデン政権は「AI拡散に関する暫定最終規則(Framework for Artificial Intelligence Diffusion Interim Final Rule)」を発表しました。この規則は、AIに対する新たな規制を直ちに実施し、高度なクローズドソースの大規模言語モデル(LLM)のモデルウェイト(model weights)を規制しました。モデルウェイト基準での規制は、規制対象となる集積回路(IC)の性能基準を従来よりも拡大することになります。具体的には、総合処理性能(Total Processing Performance, TPP)などの新たな指標を導入し、特定の先端チップの輸出に対して世界的な輸出ライセンスの取得を義務付けるとともに、サードパーティーの組立・試験事業者が取り扱うICに対しても規制対象であるとの「反証可能な推定」を適用することとしました。
しかし、2025年5月にトランプ政権が拡散規則(Diffusion Rule)を撤廃し、最終用途(end-use)規制の強化に重点を置く新たな政策声明を発出したことで、バイデン政権の初期的な規制構想は急速に崩壊しました。この方針転換により、AIトレーニングエコシステムに対して厳格な認識基準(knowledge-based)の制限が課されることとなり、規制メカニズムが根本的に変更されました。新たなガイダンスでは、インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス(IaaS)またはクラウドコンピューティングへのアクセスを提供する米国事業者が、自社のサービスが制限対象国の関係者によるAIモデルのトレーニングに使用されることを「認識」していた場合には、厳格な輸出ライセンスの取得義務の対象となりうることが強調されました。この措置により、サーバーメーカーやデータセンター運営者といった下流のハードウェアプロバイダーに対しても厳格なデューデリジェンス義務が強化され、最終的なサーバー製品やクラウドサービスにまでコンプライアンスリスクが拡大することとなります。
さらに、この規制の影響は製造段階にも及んでいます。2025年8月、トランプ政権は、半導体製造装置(SME)メーカーに適用されていた認定エンドユーザー(Validated End-User, VEU)プログラムの常時認可を廃止する方向へ動き出しました。この制度の廃止により、従来は米国で製造された部品を含む先端装置を特定の米国外の半導体製造工場へ無許可で輸出できていた非米国企業も、今後はより厳格な米国の輸出ライセンスの取得を義務付けられることとなります。米中両国がAI分野での覇権とAIの流通における支配をめぐって競争を続けるなか、米国の規制環境は依然として極めて不安定な状況にあるため、SMEメーカーをはじめとするサプライチェーン上の全ての関係者は今後も米国輸出管理法のさらなる変更を見据えておく必要があります。
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