連邦仲裁法(Federal Arbitration Act、以下「FAA」といいます。)とカリフォルニア州私人代理執行法(California’s Private Attorneys General Act、以下「PAGA」といいます。)の間の緊張関係は、従業員のPAGAに基づく個人請求を仲裁に付すことができると判断した、2022年連邦最高裁判決「バイキング・リバー・クルーズ(Viking River Cruises)」判決後も、依然として争点となっています。2023年にカリフォルニア州最高裁は、個人請求が仲裁の対象となっても、非個人(代表)請求の原告は、原告適格を維持することができると判断しました。これを受け、一部の原告は「ヘッドレス」(個人請求なし)のPAGA戦略を採用しています。この戦略は、代表訴訟全体が、仲裁を回避して民事訴訟に留まるよう、PAGAに基づく個人請求を放棄するものです。これにより、PAGAが、原告が他者のみを代表して訴訟を追行することを認めているかどうかについて、重大な法的論争が生じています。
この「ヘッドレス」戦略の適法性について、2024年7月改正以前のPAGAの条文解釈を巡り、カリフォルニア州控訴裁判所同士の間で著しい見解の相違が生じています。同条文は「被害を受けた従業員は、自身“及び”他の現職又は元従業員を代表して民事訴訟を提起することができる(an aggrieved employee may bring a civil action on behalf of himself or herself “and” other current or former employees.) 」と規定していました。 今年、第5区控訴裁判所は、2件の別の訴訟において「ヘッドレス」戦略を支持し、当該条文は曖昧であり、「及び(and)」という言葉は包括的選言(「A若しくはB又はその双方」を意味する。)であると解釈されるべきだと判断しました。これに対し、第2区控訴裁判所は、Leeper v. Shipt, Inc. (2024) 107 Cal.App.5th 1001(以下「リーパー事件」といいます。)において、この解釈を明確に否定し、文言どおり「及び(and)」は連言(常に「AとB双方」を意味する。)であると認定しました。すなわち、全てのPAGA訴訟は、個人請求と非個人請求の両方が含まれるべきであると判断したことになります。 この対立は、カリフォルニア州の雇用主にとって極めて重要です。なぜなら、原告が仲裁可能な個人請求を効果的に放棄し、仲裁を完全に回避できるかどうかを決定するものだからです。
カリフォルニア州最高裁判所は、この差し迫った法的問題を解決するために、リーパー事件の上告審理を受理しました。これにより、「ヘッドレス」PAGA戦略の将来的な実行可能性が判断され、今後数年にわたり、PAGAに関する訴訟及び仲裁の防御戦略に影響を与えることになります。当事務所は、変動するカリフォルニア州の雇用法の動向を今後も注視してまいります。
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