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ニュース&イベント: クライアント・アドバイザリー

チャプター11の域外適用について

8.26.25
関連業務分野 商事/競争/取引

1. 米国法上の取扱い

グローバルに事業を展開する企業にとって、米国におけるチャプター11破産手続の米国外における効力が重要な論点となることがあります。この点、連邦破産法(Bankruptcy Code)は、域外適用を明確に想定しており、特に11 U.S.C. §362(Automatic Stay)および§541(破産財団の定義)によって、「所在や保有者を問わず」債務者のあらゆる権利が保護される旨を定めます。

上記規定の趣旨は、複数の裁判例によって確認されています。In re Nakash, 190 B.R. 763(Bankr. S.D.N.Y. 1995)とIn re McLean Industries, Inc., 74 B.R. 589(Bankr. S.D.N.Y. 1987)においては、Automatic Stayの域外適用が認められました。また、In re Soundview Elite, Ltd., 503 B.R. 571(Bankr. S.D.N.Y. 2014)においては、Automatic Stayに基づき外国における手続が米国法上無効とされる一方で、米国裁判所が外国裁判所を統制できるわけではなく、人的管轄権が及ぶ当事者に限られることが強調されました。

このように、米国法の問題としては、Automatic Stayが域外適用されるという帰結は明確であるといえます。もっとも、その効力を実際に外国で実現するにあたっては、米国裁判所が当該当事者に人的管轄権を有しているか、また、現地で米国裁判所の命令を承認し執行することを可能な手続が存在するか、が課題となります。

他方、他の規定、例えば否認権については未だ解釈が分かれています。第二巡回区控訴裁判所は、In re Maxwell Communication Corp., 186 B.R. 807(Bankr. S.D.N.Y. 1995)において、§547(偏波弁済の否認)は議会による明示的な域外適用意思がない限り外国まで及ばないと判断しました。一方、第四巡回区控訴裁判所は、In re French, 440 F.3d 145(4th Cir. 2006)において、§548(詐害行為否認)は「所在を問わず」適用されると判示しています。さらに、連邦最高裁判所のMorrison v. National Australia Bank, 561 U.S. 247(2010)判決により、米国法令の域外適用には議会の明確な意思が必要であるとの原則が再確認されましたが、破産法特有の規定についての最高裁による具体的判断はなく、下級審において結論が割れています。

2. UNCITRALモデル法の役割

1997年に採択された「国際的な倒産手続に関するUNCITRALモデル法」は、世界各国において外国倒産手続の承認と執行のための手続フレームワークとなっています。同モデル法は、裁判所間の協力を重視しつつ、各国独自の実体法は維持する「修正普遍主義」(modified universalism)思想の下、外国倒産手続の承認、承認後の救済、並行倒産手続の調整、国内外債権者の平等取扱い等を定めています。

米国では、このモデル法を米国倒産法第15章(チャプター15)として導入しています。この制度のもとでは、外国倒産手続が承認されると、米国内で自動的にautomatic stayなどの救済が得られます。他国においても、国内法として類似の規制が導入されていますが、具体的な運用や規制の細部には差があるため、実際のエンフォースメントの可否は各国制度に大きく左右されることになります。

3. 日本の場合

日本では2000年に施行された「外国倒産手続の承認援助に関する法律」により、UNCITRALモデル法に基づく外国倒産手続の承認のメカニズムが整備されています。米国チャプター11も同法にいう外国倒産処理手続にあたり、東京地方裁判所が一元的に管轄を有します。ただし、承認は自動的ではなく、債務者や外国管財人からの申立てが必要です。その上で、裁判所により、承認の可否、日本国内資産の有無、公序良俗への抵触の有無等が審査されます。

裁判所は、外国倒産処理手続の承認をした場合、事情に応じて、債務者の日本国内にある財産に対する強制執行等の中止・禁止その他必要な処分を行い、また必要に応じて、債務者の日本国内における業務及び財産の管理を「承認管財人」に命ずることができます。

外国倒産承認援助の事例の数は多くはありませんが、例えば、リーマンブラザーズ破綻時には複数の外国倒産処理手続が日本で承認されました。日本国内に債権者や財産が存在する他のチャプター11案件でも同様の手続が適用されています。

これらの事例の多くは、日本の債権者による外国債務者の国内資産に対する執行・訴訟の開始または差し迫った開始という具体的な危機を背景にしています。たとえばリーマン破綻直後の2008年9月、同社日本法人4社は即日東京地裁に民事再生手続開始を申し立てましたが、その後、関連する香港法人の計4社についても、債権者による強制執行を防ぐため承認援助申立がなされ、管理に関する処分がなされました[1]。また、麻布建物事件では、米国発チャプター11申立の背後に日本不動産への執行差押の危機があり、債務者は、日本での承認申立と強制執行の中止・禁止命令[2]によってこれを未然に防ぎました。

裁判所は、事案の性格や緊急度、手続類型に応じて適切と考える救済を選択します。すなわち、チャプター11型(DIP型)外国手続では強制執行の中止等が、管財人管理型やすでに執行が始まっている場合には管理に関する処分がなされる傾向があります[3]

4. まとめ

米国法の問題としては、automatic stayや破産財団の範囲に関する規定が域外適用されるとの結論は明確であるといえます。ただし、これらのエンフォースメントを米国外で実効的に行うには、各国の法制度や裁判所による協力が不可欠です。一方、否認権等の他の規定については、米国法のレベルにおいても米国最高裁による明確な判断がなく、下級審ごとに見解が分かれています。いずれにしても、チャプター11手続の米国外での効力及び影響を考えるにあたっては、案件・法域ごとの具体的かつ慎重な検討が必要になります。

 

[1] アンダーソン・毛利・友常法律事務所「Legal Framework of Cross-Border Insolvency in Japan - Ancillary Proceeding for Foreign Insolvency Proceedings -」(2017年5月)3頁(2025年8月12日最終アクセス)。

[2] 同上。

[3] 同上、2頁。

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