本稿は、【アップデート:連邦巡回控訴裁判所によるトランプ関税の一時的な復活】に係るアップデートです。
総論
米国連邦巡回控訴裁判所は、2025年6月10日付けの命令により、米国国際貿易裁判所(CIT)が2025年5月28日に下した国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税の差止めに対する停止措置を継続しました。連邦巡回控訴裁判所は、政府による控訴審理中の停止措置申立てを認容し、本件の「特異な重要性」を認めて大法廷(en banc)による迅速審理を命じ、2025年7月31日に口頭審理を行うものと定めました。
背景-CITによる包括的差止命令
2025年5月28日、CITの3名の判事による合議体が、V.O.S. Selections, Inc. v. TrumpおよびState of Oregon v. Trumpの合同審理事件において、IEEPAは大統領に「世界中のほぼすべての国からの輸入品に無制限の関税を課す権限」を与えていないとの判断を示していました。このCITの決定により、以下のカテゴリーの関税が恒久的に差し止められました。
- 世界的な「相互」関税:すべての貿易相手国からの輸入品に対する10%の従価税、および57か国に対しては11%から125%までの国別上乗せ関税
- 密輸関連関税:カナダおよびメキシコ製品に対する25%関税、中国製品に対する20%関税、カナダのエネルギー資源に対する10%関税(いずれも薬物密輸および国境警備に関する国家非常事態宣言に基づく)
CITは、これらの関税が「IEEPAが大統領に与えた輸入規制の権限を超えている」と判断し、委任禁止法理および重要問題の法理に違反するとしました。
連邦巡回控訴裁判所の2025年6月10日付け命令
連邦巡回控訴裁判所の大法廷(除斥・忌避された判事を除く全裁判官による法廷)による命令は、連邦控訴規則(Federal Rules of Appellate Procedure)第8条およびNken v. Holderで示される考慮要素を検討した上で、政府による停止措置の申立てを認容しました。また、同裁判所は、Trump v. Wilcoxの比較衡量基準を適用し、暫定的救済措置は「当事者の権利を最終的に決定するものではなく、訴訟進行中の衡平性を図るためのもの」であると述べています。
本命令は、停止措置について特定の終期を定めていません。控訴審理が終了するまで、CITの差止命令の停止が継続され、関税は引き続き有効となります。
手続上の考慮事項およびタイムライン
連邦巡回控訴裁判所は、「本件は特異な重要性を有し、大法廷による迅速な審理を要する」と結論づけました。これにより、以下の2つの重要な手続上の変更が発生します。
- 大法廷による審理:通常の3名の判事による合議体ではなく、最初から全裁判官により構成される合議体が本件を審理します。
- 迅速な審理スケジュール:裁判所は、2025年7月31日の口頭審理に向けて、迅速な書面提出のスケジュールを命じました。
輸入者は、迅速な審理スケジュールに鑑み、関税制度の急な変更に備える必要があります。口頭審理の期日から、連邦巡回控訴裁判所の判断は2025年8月中旬から9月上旬にも発表される可能性があり、これによりIEEPA関税制度の即時変更や廃止が命じられる場合があります。
ただし、本件の憲法上の重要性および大統領の通商権限への影響に鑑みると、いずれの当事者も、連邦巡回控訴裁判所の判断に関わらず、最高裁判所への上告を行う可能性があります。
輸入業者への実務上の影響
現時点で、関税は引き続き有効です。すべてのIEEPA関税は、連邦巡回控訴裁判所の最終判断が出るまで、米国税関・国境警備局(CBP)により徴収されつづけます。これには以下が含まれます。
- ほとんどの国に対する10%の世界的な相互関税
- 国別上乗せ関税(2025年7月9日まで一時停止、中国を除く)
- カナダおよびメキシコ製品に対する25%の密輸関連関税
- 中国製品に対する20%の密輸関連関税
- カナダのエネルギー資源に対する10%の密輸関連関税
推奨事項
現行業務に関する事項-
- IEEPA関税の遵守継続:すべての対象関税は引き続き有効であり、課税された通りに支払う必要があります。
- 輸入記録の管理:IEEPA関税の対象となる輸入記録を詳細に保管し、返金請求の可能性に備えます。
戦略的事項-
- 急な変更への準備:連邦巡回控訴裁判所の判断により、60~90日以内に関税制度の即時の変更が発生する可能性があります。
- サプライチェーンへの影響の評価:IEEPA関税の影響が大きい品目の調達先多様化を検討します。
- 法的リスクの評価:関税無効の可能性を契約交渉や価格戦略に反映します。
本稿についてのご質問は、佐藤嵩一郎弁護士(ksato@masudafunai.com)または当事務所の商事/競争/取引部門のメンバーまでお寄せください。
増田・舟井法律事務所は、米国でビジネスを展開する日本企業の代理を主な業務とする総合法律事務所です。
当事務所は、シカゴ、デトロイト、ロサンゼルス、およびシャンバーグに拠点を有しています。
© 2025 Masuda, Funai, Eifert & Mitchell, Ltd. All rights reserved. 本書は、特定の事実や状況に関する法務アドバイスまたは法的見解に代わるものではありません。本書に含まれる内容は、情報の提供を目的としたものです。かかる情報を利用なさる場合は、弁護士にご相談の上、アドバイスに従ってください。本書は、広告物とみなされることもあります。