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破産裁判所、COVID-19対策の州知事命令により飲食店を閉鎖したテナントに対し、不可抗力条項の下で賃料支払義務の部分的免除を判示

8.31.20
関連業務分野 不動産

2020年の初めに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが広がり始めてから、その拡散を抑えるために全米の州知事が事業の閉鎖を命じる行政命令を出しました。多くの事業主が、事業閉鎖期間の賃料の支払義務から逃れるための救済手段を探ろうとして賃貸借契約書、特にその不可抗力(force majeure)条項を調べました。事業体やその弁護士は、今まで経験したことのない性質のパンデミックと相次ぐ事業閉鎖を目の当たりにしていますが、そのような重要事項の指針となる判例はわずかしかありませんでした。しかし、イリノイ州J.B.プリツカー知事がCOVID-19危機の対応策として、レストランに対して同施設で食事をする客に料理を出す(on-premises consumption)ことを禁じる行政命令を出した結果1 Hitz Restaurant Group事件において、イリノイ州北部地区連邦破産裁判所は、近時、賃貸借契約書に含まれる不可抗力条項に基づき、テナント(賃借人)‐債務者の賃料支払義務は一部免除されると判示しました。

2020年2月24日、Hitz Restaurant Group(「Hitz」)は連邦破産法第11章(Chapter 11)による破産申立てを行いました。そして3月16日に、プリツカー知事は、「施設内で飲食する客に(on-premises consumption)、料理や飲み物を出すイリノイ州の全事業体(レストラン、バー、食料品店および宴会施設を含む)は、かかるサービスの提供を一時停止しなければならず、同敷地内で客が飲食するのを許可してはならない。」2 と定める行政命令を出しました。その結果、Hitzは業務停止を強いられ、2020年2月、3月、4月、5月、6月と賃料を支払いませんでした。

Hitz Rest. Grp.の申立てに対して、破産裁判所は、Hitzの賃貸借契約書に含まれる不可抗力事項により、Hitzは、プリツカー知事の行政命令が有効となった後に支払期日が到来したテナント(賃借人)の賃料(すなわち、4月から6月までの賃料)の支払義務から免除されるか否かを検討しました。Hitzの賃貸借契約書に含まれる不可抗力事項には、次のように定められていました。

『家主及び賃借人は、・・・法律、政府の措置若しくは当該措置の不在、政府命令・・・により生じた事象において、(かかる事由によって)阻止・遅延・妨害又は邪魔され、契約当事者としての義務のいずれかを履行できない限り、各当事者は、本賃貸借契約書で規定されるその義務又は引き受けた仕事の履行から免除されるものとする。資金不足は不可抗力の事由とはならないものとする。』3

裁判所は、「行政機関の措置」および「命令」は、本賃貸借契約の本不可抗力条項により、契約義務の履行を免除する事由と特定されるため、本条項は、プリツカー知事が当初レストランの閉鎖を命じた後に、「支払期日が到来した4 当該賃料の、少なくとも部分的支払に、明確に適用される」と判断し、本行政命令が出されたことによって、Hitzは自らの施設でレストランとしての運営業務を継続することが禁じられたため、同行政命令は、Hitzが当該契約期間の賃料を支払えなかった「紛れもない主原因」5であったと判示しました。

債権者(家主)は、Hitzが支払を怠った理由は、「資金不足」であったため、Hitzは本不可抗力条項によって免除されないと主張しましたが、裁判所は、それをはねつけました。Hitzが収益を生み出すことができず、賃料を支払えなかった主原因は、資金不足ではなく、知事の行政命令であったという同社の主張について裁判所は説明しました。さらに債権者の別の主張に対して、裁判所は、契約当事者が、行政命令の影響により(運営上・財政上)不利な状況に追い込まれた場合は、融資を受けるか、または別の収入源を探す義務を負うという条件は、本不可抗力条項にはまったく含まれていないと指摘しました。それにも拘わらず、プリツカー知事の行政命令では、レストランが同施設の外で料理を提供する(off-premises consumption)ことは「許可され、奨励されていた」6ため、Hitzには、「収益創出力が低下した割合に合わせた」7賃料を支払う義務があるとして、4月から6月の賃料の25%を支払うべきであるという予備判決を下しました。

Hitzに関する本判決は、他の裁判所の判決を拘束するものではありませんが、COVID-19時世下で事業体およびその弁護士が不可抗力条項について考察する際に役立つ指針となるでしょうし、本判決により、裁判所の説得的権威(persuasive authority)も認められることでしょう。また本件を通じて、今後、不可抗力条項を草案する際には、さらに明確性と包括性が必要であることも浮き彫りにされています。テナントは、賃貸借契約におけるテナントの履行義務を免除する不可抗力の事由として、「法律、政府命令、いかなる行政命令、政府による措置又は当該措置の不在を含むがそれに限られない」という記載を必ず含めるべきです。他の裁判所が、Hitz事件の判例に倣うかどうかは、時間が経てばわかることですが、とりあえず、本判決により、法律上曖昧な部分がいくらか明らかになりました。


1 In re: Hitz Rest. Grp., Case No. 20-05012, 2020 WL 2924523 (Bankr. N.D. Ill. June 3, 2020).
2 Ill. Exec. Order 2020-7
3 See In re: Hitz Rest. Grp., Case No. 20-05012, 2020 WL 2924523 at *2 (Bankr. N.D. Ill. June 3, 2020).
4 Id.
5 Id.
6 Ill. Exec. Order 2020-7
7 In re: Hitz Rest. Grp., Case No. 20-05012, 2020 WL 2924523 at *3 (Bankr. N.D. Ill. June 3, 2020).

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