Skip to Main Content
ニュース&イベント: クライアント・アドバイザリー

外国投資リスク審査近代化法(FIRRMA)の最終実施規則における特定の不動産取引に関わる規則について

6.15.20
関連業務分野 不動産

概要

2020年1月17日、米国財務省投資安全保障局(Office of Investment Security, Department of Treasury)は、対米外国投資委員会(CFIUS)の管轄および権限を定義し、その管轄に服する一定の取引に対するCFIUS の審査手続きを最新化するための2018年外国投資リスク審査現代化法(Foreign Investment Risk Review Modernization Act of 2018)(「FIRRMA」)の最終実施規則を発表しました。この最終規則は、2020年2月13日に発効され、(1) 外国人(foreign person)訳注1による米国への特定の投資に関する規定、および(2)外国人による特定の種類の不動産取引に関する規定の2部から構成されています。

「第 2 部:外国人による特定の種類の不動産取引に関する規定(31 C.F.R. part 801)」(「第2部」)は、外国人による特定の不動産の購入もしくは賃借、または外国人への当該不動産における権利利益の付与に対するFIRRMAの下でのCFIUSの新たな審査権限を定める新規則を設置するものです。

本稿では、(1)第2部により設置された新規則の内容のほか、(2)第2部の下、自主的届出(voluntary notice)を行うべきか否かを判断する際の検討事項をケーススタディを通して解説します。

新規則

FIRRMA施行前のCFIUSによる不動産取引審査は、外国人による米国事業の支配を伴う可能性のある合併・買収の一部を成す不動産取引に限られていました。しかし、FIRRMAの下、不動産取引は、大きな取引の一部を成すか否かにかかわらず、「対象不動産取引(covered real estate transactions)」となり、CFIUSによる審査権限が及ぶとされたのです。なお、「対象不動産取引」は、FIRRMAがその他の取引に課している義務的申告(mandatory declaration requirement)の対象とはならず、あくまでも審査申請は任意に留まることにご留意下さい。

「対象不動産取引」には、「外国人による対象不動産の購入もしくは賃借、または外国人への対象不動産における権利利益の付与」であり、かかる外国人に対して対象不動産における一定の基本財産権(不動産にアクセスする権利、他者による不動産への侵入を排除する権利、不動産を改良・改築する権利、および固定構造物を設定する権利を含む)のうちの少なくとも3つを提供する取引が該当します。(§802.212および§802.233参照)FIRRMA §802.211は、「対象不動産」を次のように定義しています。

(a) 対象港(covered port)内に設置されているか、あるいは対象港の一部として機能する不動産

(b) 次のいずれかの範囲内に所在する不動産

(1) §802.227(b)から(o)で定義される軍事施設、または米国連邦政府のその他施設もしくは不動産に近接する範囲 (具体的な該当施設については第2部の別紙A(Part 1・Part 2)記載の一覧表参照)

(2) §802.227(h)、(k)または(m)で定義される軍事施設の拡張範囲(具体的な該当施設については第2部の別紙A(Part 2)参照)

(3) §802.227(a)で定義される軍事施設に関連して指定された郡(county)またはその他地理的地域(具体的な該当郡・地域については第2部の別紙A(Part 3)参照)

(4) §802.227(p)で定義される軍事地域のいかなる範囲内(ただし、米国の領海内に所在する限りとする)(具体的な軍事地域については第2部の別紙A(Part 4)参照)

FIRRMAの規則を検討する中で、米国財務省は、§802.211の起草おいて特定の場所および距離の観点から「対象不動産」を定義するという同省のアプローチが、意見聴取期間中に支持されたとしています。当該アプローチに従い、FIRRMAは、米国運輸省(Department of Transportation)が管理し、同省のウェブサイトから容易に入手可能な様々なリストを参照することで、「対象港」を定義しています。さらに、別紙Aは、軍事施設、州、市および郡を参照することにより、特定の土地および場所を指定しています。ちなみに、「近接(する)」とは、対象不動産または施設の境界線から1マイル外側の範囲と定義されています。また、「拡張範囲」は、対象不動産または施設に近接する外部境界から99マイル外側の範囲を意味します。さらに、米国の「領海」は、同国の海岸から12海里に及ぶ範囲となります。このようなことから、特定の不動産に関わる取引が、一定の物理的距離内に所在することで、FIRRMA下でCFIUSの審査対象となる可能性があるか否かについては、米国財務省の規則およびリストを参照することで比較的容易に判断することができると言えます。さらに、米国財務省は、このような判断において一般市民にさらなる指針を提供するため、ウェブベースのツールを作成しました。当該ツールは、右記リンクから(Link)ご覧下さい。 

一方で、FIRRMA §802.21は、「対象不動産取引」の定義から特定の取引を除外しており、CFIUSの審査対象の例外を設けています。これらの例外のうちのいくつかは次の通りです。

(a) 適用除外不動産投資家(excepted real estate investor)による対象不動産の購入もしくは賃借、適用除外不動産投資家への対象不動産における権利利益の付与、または対象不動産に関わる適用除外不動産投資家の権利の変更。... (c) §802.211(a)または(b)(1)の対象となる不動産を除く、都市化地域(urbanized area)または都市クラスター(urban cluster)内に所在する対象不動産の購入もしくは賃貸、または対象不動産における権利利益の付与。... (f)対象不動産である複合建物における外国人による商業用スペースの購入もしくは賃借、または外国人への当該商業用スペースにおける権利利益の付与で、取引完了時に次の事象に該当する場合。(1)外国人およびその関連会社が購入もしくは賃借する当該建物における商業用スペース、または外国人および関連会社に権利利益を付与する商業用スペースが、商業用スペースの合計面積の10%を超えない場合、および (2) 外国人およびその関連会社(それぞれ別個に数える)が、所有権、賃借権および権利利益の数において、テナント総数の10%を超えない場合。

「都市クラスター」および「都市化地域」は、直近の米国国勢調査を参照することにより定義されます。「都市クラスター」とは、人口2,500人以上50,000人未満の地域をいい、「都市化地域」は、少なくとも50,000人以上の地域をいいます。§802.215は「適用除外不動産投資家」について定義しているため、「適用除外不動産投資家」としての適格性の有無を判断するには、同セクションの確認が必須といえます。なお、外国法人が本セクションの下で適用除外不動産投資家とみなされるには、「適用除外不動産外国(excepted real estate foreign state)」の法律に基づいて組織されていなければならず、2022年2月13日までは、オーストラリア、カナダならびにグレートブリテンおよび北アイルランド連合王国が唯一の「適用除外不動産外国」となっています。

執行および罰則

CFIUSは、調査が完了した時点で、特定の取引に関して複数ある措置の中からいずれかの措置を講じるよう、大統領に勧告することができます。また、大統領においては、取引を禁止したり、停止したりすることができます(§802.508(b)(1)参照)。さらに、CFIUSは、取引が国家安全保障にもたらすリスクを軽減するため、取引当事者に対して取決めまたは一定の義務を課すこともできます。

FIRRMAが、重大な虚偽記載もしくは脱漏、または虚偽証明を含む申告・届出を提出する者に対し、違反1件につき$250,000を上限に民事罰を課すようCFIUSに指示していることは特記すべき点です(§802.901(a))。

ケーススタディ

A社は、日本の東京に主たる事業所を有する日本法人です。同社は、カリフォルニア州ロンポック(Lompoc, California)に事務所を賃借し、カリフォルニア州南部での事業を推進することを検討しています。賃貸借契約は、85,000平方フィートのオフィス・ビル(「本建物」)の2階に7500平方フィートのスペースを賃借するものであり、A社は、テナント改装工事手当として10,000ドルを交渉しました。A社が物件に一定の改装を施し、建物工事業者からの先取特権放棄書を家主に提供した後、家主はA社に対し、改装工事手当の額を上限に工事費用を支払います。A社は、FIRRMAの下で、本賃貸借契約がCFIUSの審査対象になるか否かを懸念しています。

質問 1: 当該取引は、「対象不動産取引」に該当しますか?

回答: はい、「対象不動産取引」に該当します。FIRRMA §802.212は、「対象不動産取引」として、「外国人による対象不動産の購入もしくは賃借、または外国人への対象不動産における権利利益の付与」であり、当該外国人に対して一定の基本的財産権のうちの少なくとも3つを提供するものと規定しています。A社によるロンポックの事務所スペースの賃借は、明らかに「外国人による賃借」に該当します。さらに、検討中の賃貸借契約は、§802.233に明記されている基本的財産権のうちの少なくとも3つ、すなわち不動産にアクセスする権利、他者による不動産への侵入を排除する権利、および不動産を改装する権利をA社に付与するものです。

質問 2: 当該不動産は、「対象不動産」に該当しますか?

回答: はい、「対象不動産」に該当します。当該不動産は、対象港の範囲内に所在しておらず、また対象港の一部としても機能することもないばかりか、パート802の別紙A(Part 1・Part 2)のリストに記載の米国政府施設にも隣接(すなわち、1マイルの範囲)していません。しかし、当該不動産は、第802部別紙AのPart 2に記載のヴァンデンバーグ空軍基地の拡張範囲(すなわち、100マイル範囲)において約20マイルに位置に所在していることから、§802.211(b)(2)が定める「対象不動産」に該当します。

質問 3: 当該取引は、§802.216に基づく「対象外不動産取引(excepted real estate transaction)」ですか?

回答: はい。2010年の米国国勢調査によると、2010年のカリフォルニア州ロンポックの人口は約42,000人であり、ロンポックはFIRRMAの下で「都市クラスター」であるため、会社Aによる賃借は、802.216(c)項に基づく「対象外不動産取引」となります。なお、本建物に少なくともその他9名の個人または9社の事業体がテナントとして入居している場合、A社が賃借するスペースは本建物の商業用スペースの合計面積の10%未満となり、商業用スペースを賃借するテナント総数の10%を超えないため、当該取引は§802.216(f)の下でも「対象外不動産取引」となることにご留意ください。

結論として、A社によるカリフォルニア州ロンポックの賃貸借契約は、§802.216(c)および§802.216(f)に基づいてCFIUSの審査対象から除外されることになります。

結論

この度米国財務省は、外国人への米国内の特定の不動産における権利利益の付与、または外国人による特定不動産の購入もしくは賃借を審査するため、FIRRMAの下のCFIUSの審査権限を実施する新たな規則を公表しました。新たな規制の下で任意的審査申請の対象となる取引は、米国政府の施設との近接度合いで定義される「対象不動産」が関与する取引です。一方で、一定の都市部における不動産取引や「適用除外不動産投資家」が関与する取引など、CFIUSの審査対象外となる取引もあります。CFIUSおよび大統領は、FIRRMAの下で広範な執行権限を有しており、これには取引を完全に禁止する権利のほか、取引が国家安全保障にもたらすリスクを軽減するための措置を課す権利が含まれます。さらにCFIUSにおいては、重大な虚偽記載もしくは脱漏、または虚偽証明を含む申告・届出を提出する者に対し、違反1件につき最高$250,000の民事罰を科す権限を保持しています。


訳注1 「外国人」とは、外国市民、外国政府もしくは外国企業、またはそのいずれかにより支配される事業体を意味します。

© 2024 Masuda, Funai, Eifert & Mitchell, Ltd. All rights reserved. 本書は、特定の事実や状況に関する法務アドバイスまたは法的見解に代わるものではありません。本書に含まれる内容は、情報の提供を目的としたものです。かかる情報を利用なさる場合は、弁護士にご相談の上、アドバイスに従ってください。本書は、広告物とみなされることもあります。