ジョイント・ベンチャーに備えて(パートII)

Date: 4/1/2010
 リスク・マネジメント関連情報(2010年4月)

概要

本稿に含まれる重要点は、以下の通りである。

· 外国法人にとって、米国でジョイント・ベンチャー(Joint Venture) (または「JV」と呼ばれる)を形成することは、 完全所有子会社を設立するときとは異なり、JV会社に対する支配権は弱まるものの、北米市場でより早い浸透を目指す上では好ましい手段となり得る。

· JVには、設立後10年以内に事業に終止符を打つものが多いため、JVを考慮している外国法人は、JVの運営方法その終了が外国会社の他の事業の利益にも影響を与えることを心得ておかなければならない。

· 外国会社が参加するJVを米国で成功させるには、JVパートナー同士が互いに信頼し合い、戦略的展望を共有し、共通のビジネス・カルチャーを築く必要がある。

· ジョイント・ベンチャー契約(Joint Venture Agreement) (または「JVA」と呼ばれる)には、通常、JVの存続期間にJVパートナーの特定製品を製造または販売するパートナーの権利を制限する競業禁止」条項が含まれており、そのような「競業禁止」の制限は、JVAが解除された後の期間についても適用されることがよくある。

· 多くの場合、JVの目的は、新たな製品やテクノロジーを開発することであるため、JVAは、外国会社がJVでパートナーと共有する知的財産権を保護し、JV会社を通して開発される知的財産に対してJVの各パートナーが持つ権利特定するよう、注意深く作成されなければならない。

JVの利点

JVは、厳しい経済状況において、資本投資とリスクを制限しながらも「足跡」を刻み、利益を増やす手段を探そうとする会社にとって魅力的である。新製品または既存製品を売り込むために米国市場を築きあげたり、または米国市場に浸透したりするために、一時期は完全所有米国子会社の設立を考えていた外国会社も、今度はJVパートナーを探しているかもしれない。

外国会社が、米国の完全所有子会社を設立する代わりに、アメリカの「パートナー」とJVを設立する場合には、いくつかの利点がある。JVによって、すでに世間に知られた米国会社と共同事業を行うことにより、外国会社は、米国市場へより早く進出することができる。さらに重要な点は、外国会社が製品を製造し、流通販売する際のすべての費用およびリスクを自社だけで負う必要がなくなるということである。これは、外国会社が、いくつかの米国会社を通じてすでに流通販売している製品を改善するための新テクノロジーを紹介しようとする場合には、特に当てはまることである。状況に恵まれていれば、外国会社にとっては、米国完全所有会社を設立するよりもアメリカのJV「パートナー」を見つけるほうが、より良い手段と言えるかもしれない。

そのような場合、外国会社は、同社が持つ新テクノロジーをJV会社に提供する代わりに、JV会社が製造・販売する商品について、JV会社からライセンス料の支払を受け取ることになる。アメリカのパートナーは、JV会社によって製造・販売される商品の手数料を支払う代わりに、その販売網、市場経験およびアメリカ国内でのマネジメントを提供することができるだろう。両パートナー会社が資本を出し合い、JV会社が利益を上げている限り、JVパートナーは、各社がJV会社に持つ株式数に基づき配当金を受け取ることができる。(JV形態がパートナーシップまたはLLCである場合は、JVの損益は、各JVパートナーに分配される。)相対的な出資、人材や施設の提供は、JV製品がどこで製造されるか、またはいずれかのJVパートナーがすでに持つ施設と労働力がJV製品の製造や組立てに使用されるか否かによって異なってくる。外国のテクノロジーが独特または高度なものである場合は、JV当事者らは「グリーンフィールド(未開発地)」の新施設を開発することができる。

JVにより相当の報酬を得られる一方で、米国に現地のパートナーとJVの設立を計画する外国会社は、独特のリスクと問題に直面する。前稿(パートⅠ)では、外国会社がJVパートナー候補者に、既存の機密情報と知的財産(Intellectual Property)(または「IP」と呼ばれる)を開示する前に、同情報を適切に定めて保護しなければ、リスクに直面することになるという点に焦点を当てた。本稿(パートⅡ)では、JVが成功した場合でも、外国会社がJV設立に際して直面するリスクと制限について論じるが、このようなリスクと制限を回避するには、JV設立前に対処する以外に他の手段はない。かかるリスクと制限について事前に対処する必要性としては、以下のようなものがある。

· JV事業が運営されている間、外国会社がJV対象販売地域外でも自社製品を販売する権利を過度に制限することなく、またさらに、JVが解散した後でも、外国会社が持つ自社製品の販売権利を過度に制限しないようにする、適切な「競業禁止」条項をJVパートナーのJVAの中に含める必要性 。

· 外国パートナーが有する非常に貴重なIPとノウハウを他国の競争相手または競合者となり得る相手と共有することにより必然的に伴うリスクを減らす必要性、ならびにJVによって開発された新たなIPを誰が所有するか、およびJV運営期間中とJV終了後に、各パートナーが自社のビジネス運営において新たなIPを使用できるかについて、JVAに明記する必要性。

これらの法的な留意点およびJVにおける他のリスクについては、以下で論じる。

JVを始めるに当たっての留意点

外国会社が米国でJVに着手する際に困難に直面するというのは、多くのJVがその形成から5年から10年以内に解散している事実から明らかである。JVは、JVパートナーの目標が達成されると、JV会社が解散されて、「終了」することがある。しかし、ほとんどの場合はそうではなく、JVは、そのパートナー同士が (a) 異なる社風を持つ、 (b) 異なる目標を立てた、(c) 単に、望んでいたはずの成功・目標達成のために必要とされる精神で協力し合えない、または (d) 市場/経済状況により、JV当事者らにとって、もはやJVの実現が不可能、または望ましくない、および/または、(e) JVパートナーの一方または両当事者が追加的資本投資を望まないという理由で、予測していたよりも早く失敗することがある。外国会社が、アメリカのパートナーとJVを行ったことはないが、米国の完全所有子会社を運営したことのある場合には、完全子会社とは経営が異なることのあるJVの良さを最初は分からないかもしれない。

さらに、JVを設立する場合と米国の完全所有子会社を運営する場合の大きな相違点をもう一点挙げれば、完全所有子会社の場合は、外国の親会社がその子会社の独占的支配権を持ち、子会社の目標と、その目標を達成させるために役立つ資源を決定することができるという点である。そのような目標達成は、長期に及ぶことがあり、長期による達成結果を優先させるために、短期の達成目標を見送ることがある。しかし、JVの場合は、理論上、各パートナーがJV会社の運営に関与する度合いは同等であり、パートナーのひとりが望むことでも、他のパートナーがそれを承諾するとは限らない。一般的に、JV会社の運営に携わっているパートナーがJV会社の運営に与える影響のほうが、実際の運営では「不在の」外国企業パートナーが与える影響よりも大きい。そのために、外国パートナーにとっては、さらに難しい問題点が生まれる。また、JVパートナー同士が、互いに信認義務を負うこともできる。

JVに外国パートナーが関与する場合には、JVと外国パートナーとの間のビジネス・カルチャーの相違から、JVが失敗に終わることがある。JV会社の日常業務を管理する経営者は、(おそらく無意識に)外国パートナーによる決定事項の重要性を評価または尊重しないかもしれない。かかる経営者には、JVの目標を実現させるために協力するアメリカのパートナーの上席経営陣だけではなく、JV会社で勤務する工場長や営業部長も含まれる。多くの場合、これらの地位に就いている人々は、すでにアメリカのパートナーに属しているため、JVパートナー間で深刻な意見の不一致がある場合には、おそらくアメリカ側への帰属意識の方が強いだろう。アメリカのJV会社の主要従業員が、外国パートナーによるJV事業の関与を「妨害」や「干渉」とみなすことも珍しくはない。特に、JVパートナー同士の関係は対等なものであり、JVを成功させるためには両当事者による貢献が必要であるという適切な説明が、JV従業員に対してされていない場合に、このような状況が生じる。

また、かかる問題点を念頭に置きながら、米国でJVに参加しようとする外国会社は、JVが設立される前に、実際に競争相手となり得る相手に自社の貴重なIPを提供することになり、たとえJVが成功したとしても、JVパートナーが近い将来グローバル市場での競争相手となり得ることも理解しておかなければならない。 JVパートナーは、御社のIPまたは御社と同パートナーが協力して開発したIPを御社に対抗して利用するかもしれない。したがって、JVを設立する前の段階で、JVが終了したときのことも考慮しておくことが、外国会社にとっては非常に重要である。外国会社が、米国市場でJVを通じて新製品を開発・販売する目的でそのIPを提供している場合は特にそうである。

前稿「ジョイント・ベンチャーに備えて(パートⅠ)」で詳しく記載したように、米国で形成されるJVの権利および義務は、主にJVAにより定められている。それだけではなく、JVに関して、機密保持契約書、供給契約書、知的財産契約書および関連文書が別途作成されることが多い。当然ながら、JVAおよび関連契約は、米国の準拠法に従ったものである。その結果、米国市場で競争に臨む会社が米国で設立されるJVに関与するような場合には、そのJVの設立に連邦および州の独占禁止法が適用されることがある。したがって、JVの形成には、すでにその当初計画段階から、米国子会社を設立する場合よりもさらに複雑な法的手続や処理が必要とされる。また、JVAと関連契約書は、設立されるJV会社の目標、義務および権利を明確にすると同様に、JVの期間中そして終了後のJVパートナーの個別の権利および義務についても明記するように、注意深く作成しなければならない。

外国会社は、「標準的JVA」と表示されるJVA文書には特に注意すべきである。JVAの作成は、「標準的」リーガル・プロジェクトではないため、弁護士だけに任せておけることではない。JVAの作成に際しては、外国会社の経営陣が、十分に参与していなければならない。外国パートナーによる参与が不十分であったり、JVAの作成をアメリカ側のパートナーに任せてしまったりすれば、いずれは同契約によって、外国のJVパートナーにとって不利な結果が、JVの存続期間と対象地域を越えた範囲にまで及ぶ可能性がある。

JVによる「JV対象外(Non-JV)」製品の販売に対する制限

外国会社がJVを始める前に最初に考慮しなければならない問題点の一つは、外国会社が、JVの存続期間中に他市場で自社製品を販売しようとする際に、その販売権利がJVによってどのように制限されるかということである。通常、 JVAには、JVの存続期間中は、いずれのパートナーも、JVとは無関係の製品であっても、JVの下で販売される製品に競合するような製品を特定の販売地域、市場、または顧客に対して販売しないという(「「競業禁止」条項」)パートナー同士の約束が含まれている。この「競業禁止」条項によく含まれる条件は、JVの存続期間中およびJVの終了後に、両パートナー会社に対して、JVの活動(販売)地域外におけるJV対象外製品の販売権を制限するものである。JV製品が開発され、JV会社がその運営を始めるまでは、外国会社は、JVAに含まれる「競業禁止」制限が全体に及ぼす影響について十分に考慮しないことが多い。またもちろん、JVで開発された製品が、JVパートナー達にとって、最初に製品開発を始めたときに計画していたものとは異なっていることもある。

JVパートナー達は、JV会社を通じて製品開発を始める時点では、パートナーの一方または両方が、JV期間にJV対象販売網以外の販売網でJV製品と同じ物(またはJV製品に基づいて開発された製品)の販売を望むようになるということまで考えつかないかもしれない。たとえば、外国製造会社が、その標準的製品設計に基づき、JVを通じて米国で独占的に販売される特殊製品を開発するとする。そのような場合、同製造会社は、自国または世界市場の別の地域でも、その特殊製品の販売市場が存在するかもしれないということまでは気づかないことがある。このように、JVが設立されてから2、3年後に、外国製造会社は、JVAに含まれる制限により、JV対象外の市場で、JV製品または類似製品を販売できないかもしれないことに気づく。アメリカの JVパートナーは、そのような製品の販売について抗議してくることもあり、かかる販売は認めないという要求の理由として、JVAの「競業禁止」条項の制限を主張することだろう。この時点になってから、外国パートナーの望みを実現させるためにJVAに注意を向けたとしても、すでに遅すぎるかもしれない。

したがって、JVAの「競業禁止」条項を草案・作成するときには、JV 製品の開発が各パートナーの他の事業にどのような影響を与えるかという点も事前に考慮しながら十分な注意を払わなければならない。「競業禁止」条項は、 (a) JVの目的と目標に一致し、 (b) JVパートナー達の期待に沿い、当然ながら、(c) すべての準拠法、特に米国独占禁止法を確実に順守するように、注意深く記載されなければならない。

外国パートナーのIPJVで開発されたIPを保護するには

「競業禁止」条項を記載する際に考慮しなければならない留意点と同様に、JVで共同使用されるIPに対する外国パートナーの権利を保護するために注意しなければならない点がある。外国会社のIPの保護は、同社のリーガル・チームにとっては、最も重要な義務であるべきである。JVで使われる機密情報に対する法的保護がアメリカの裁判所では認められない可能性がある場合には、特にそうである。しかし、外国パートナーがJVで提供するIPに米国法の保護が適用される場合でさえも、外国会社が自社のIPについてすべての所有権を留保することについてJVAに明示しなければならない。JVA には、JV会社は、JVの存続期間において外国会社のIPまたは他のノウハウの使用許諾権を取得するにすぎないと規定されることが多い。さらに、JVAには、外国パートナーのIPを基にしてJVで創造されるすべてのIPは、外国パートナーの独占的所有物であることを明記すべきである。繰り返すが、JVの存続期間において、JV会社に対しては、外国パートナーのIPから派生した許諾使用権が付与されるにすぎない。IPの所有権と使用に関する条項は、外国パートナーのマネジメントとの重要な関わりを重視して、JVが時の経過に伴いどのように発展してゆくかという見通しを立てながら、記載されるべきである。

結論

JVAは、様々な異なる目標の達成を意図して作成されるため、特定のJVAにはどのような内容を含めればよいかについて、一般的にアドバイスするのは不可能に近い。しかし、米国で設立されるJVに自社の財産情報または機密製品情報を提供/使用許諾することになる外国会社は、まず初めに米国弁護士に相談し、自社の知的所有権を保護するための最善策を講じるべきである。そして、これは、JVパートナー候補者にそのような情報を開示する前にすべきことである。米国でJVを計画する外国会社は、JVによって同社に生じ得るリスクや制限、すなわち、外国会社が、JVの存続期間および終了後にJV対象販売地域外で同社の製品を販売する際に生じ得る制限についても考慮すべきである。

JVの当事者が、JVにおける目標が達成されているか、または近い将来変わる傾向にあるか否かを定期的に評価することも同様に重要である。また、もし外国会社が、状況の変化によりJVの目標は達成されないと判断する場合には、弁護士に相談し、JVの終了および/またはリストラクチャリングによる法的影響について検討すべきである。

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